2024年11月22日(金) 【不妊症、不妊治療の最新情報】
不妊症を招く抗精子抗体とは
本来ヒトの体は、自分の体の成分以外の成分(細菌など)をすべて拒絶して身を守っており、これを「免疫」と呼んでいる。
ただし女性には例外的に、自分の体の成分以外で拒絶せず受け入れることが二つある。それはに「精子」と「赤ちゃん(胎児)」だ。
しかし本来拒絶されないはずの精子を、外敵と見て攻撃するための抗体を作ってしまうことがある。
それを「抗精子抗体」という。
この抗体は男性にも見られるケースがある。男性の体内では本来、精子と血液には関門があり、絶対に触れないようになっている。
しかし炎症などの影響で、精子が直接血液と触れてしまうと、抗精子抗体が作られてしまい、自分の精子を自滅させてしまう場合がある。その結果、精液検査で精子無力症や精子の凝集反応として見つかる場合が多い。
抗精子抗体は、男女ともにごく一部の人にしか認められず、何故できてしまうのかはハッキリと分かっていない。
現在、原因不明不妊症の約13%に見受けられ、不妊女性の約3%に血中精子不動化抗体が存在し、不妊男性にも約3%に射出精子上の精子結合抗体が存在することが確認されている。
抗精子抗体を疑われる基準
原因不明の長期不妊・精子通過障害(フーナーテスト不良・人工授精腑成功例)・一般精液所見・予想不能の受精障害から、抗精子抗体を疑われる。
この抗体は、頚管粘液・子宮腔・卵管内・卵胞液内にも出現し、抗体が精子の尾部の膜に結合すると一部に損傷が起き、それが細胞内のpHや浸透圧に影響を与えてしまい、精子の運動が停止するのではないかと考えられている。
ただ、抗精子抗体は精子の活動(運動率)に障害を与えるだけなので、抗体のない場所で受精した受精卵に対しては、特に悪い影響は与えないそうだ。
また、抗精子抗体は変動するため、抗体値が低い時期には妊娠しやすい条件になる可能性がある。そのため、タイミング法や人工授精で妊娠することがあるのだ。しかしこの変動は予測不可能なうえに、不妊治療の過程においてさらに悪化するケースもある。
抗精子抗体の種類
抗精子抗体には、抗精子凝集抗体と抗精子不動化抗体がある。
・抗精子凝集抗体
精子の頭部と頭部・頭部と尾部・尾部と尾部を結合してしまう抗体がある。大きな精子の凝集塊を作ってしまうため、子宮内への進入が阻害されてしまうのだ。
・抗精子不動化抗体
精子の尾部に反応し、そこに抗体が触れた途端、精子は運動を止めてしまう。運動性のない精子は自力で受精出来なくなってしまうのだ。
抗精子抗体の検査
抗精子抗体の検査は、血液検査で可能なため、検査時期は選ばない。本来はすべての患者さんに検査を行なう必要があるのだが、保険適用外のため自費となり、病院によって費用が異なる。
だいたい4,000〜10,000円前後だろう。このため、フーナーテストが不良の場合にのみ検査するケースが多い。
抗精子抗体検査は、女性の血液を採取し、その血清の中に健康な精子サンプルを入れて様子を観察する「精子不動化試験」が主流だ。
男性の場合は、精子に結合している抗精子抗体を直接イムノビーズテスト(D-IBT:direct immunobeadtest)と呼ばれる方法で行われる。結果次第で、二次検査として受精能を調べるHZA検査(hemizona assay)を行う場合もある。
抗精子抗体の治療法
以前はコンドーム法と言われる、性交時にコンドームを用いて女性が精液に接触させない期間を作り、抗体価を下げるという療法が選択されていた。しかし成績は良くなく、過去の治療方法となっている。そのため、現在は体外受精・顕微授精が有効な治療方法になっている。
日本産婦人科学会のデータでは、抗精子抗体を1ヶ月ごと3回以上測定した際の値が10前後の場合はAIH(人工授精)を選択され、それ以上の値では体外受精・顕微授精を選択するとある。
抗精子抗体が陽性であっても妊娠できないことはないのだ。もともと、妊娠力は備わっているため、抗精子抗体を乗り越えれば妊娠率も高くなる考えられている。実際に体外受精・顕微授精を行った場合、1回目で妊娠される方が多いと言われているのだ。